OpenAIは8月12日、企業のAI活用状況を分析した2本のレポート「Enterprise Signals」と、企業・職種別のAI利用の広がりを調べたワーキングペーパー「How Organizations Use AI: Evidence from ChatGPT」を公開した。両者を合わせると、AI活用が最も進んだ「フロンティア企業」と平均的な企業との利用量の差が、この半年で3倍以上に開いたことが分かる。
OpenAIは毎月、企業顧客をアクティブユーザー1人あたりの出力トークン数で順位付けし、上位10%を「フロンティア企業」、45〜55パーセンタイルを「平均的な企業」と定義している。この差は1月時点で2.6倍だったが、6月には8.3倍まで拡大した。背景にあるのがコーディング支援ツール「Codex」の存在感の高まりで、6月時点でCodexが生み出した出力トークンは、ChatGPTと合わせた総量の64%を占めた。エージェント型のワークフローは複数手順にわたる作業を代行するぶん出力量が増える傾向があり、この数字は利用頻度と作業量の両方を反映しているとOpenAIは説明する。
レポートはこの変化を「尋ねるAIから、実行するAIへ」と表現している。従来はプレゼン資料の作り方をAIに尋ねる使い方が中心だったのに対し、ChatGPT WorkやCodexのようなエージェント製品は、複数の情報源から資料の材料を集めて下書きまで仕上げるところまで代行する。人が確認・修正する前提の「レビュー用の成果物」を出す使い方が広がっている、というのがOpenAIの説明だ。
広がりはエンジニアリングの外へ
Codexの利用は当初ソフトウェア開発が中心だったが、2月以降の週次アクティブユーザー数の伸びは、法務が108倍、営業が41倍、採用が41倍、マーケティングが26倍と、エンジニアリングの5倍を大きく上回る。事例として挙がっているのが航空会社ヴァージン・アトランティックで、エンジニアリングチームはCodexを使い、従来2週間かかっていたレガシーコードの改修を30分で終えるようになったという。プロダクトチームも、ChatGPT Workを使って数週間分の競合調査を数時間で終え、その内容を5年間のデジタル戦略の策定に反映しているとレポートは紹介している。
プラグイン利用率と若手優位
プラグインは、業務手順を定めた「スキル」と、CRMなど社内システムに接続する「アプリ」を組み合わせたものだ。たとえば営業向けのプラグインなら、チームの商談手順とCRMの顧客情報を組み合わせ、過去の提案内容を踏まえた提案文書のたたき台をエージェントに作らせられる。こうした機能の利用率にも差があり、フロンティア企業では週次アクティブユーザーの21%がプラグインを、19%がスキルを使うのに対し、平均的な企業ではそれぞれ9%、3%にとどまる。OpenAI社内では95%の従業員が週次でプラグインを利用しており、レポートはこの数字を「企業側にまだ伸びしろがある証拠」と位置づけている。もう一つの working paper では、AI活用が進んでいる米国上場企業ほど資産規模・従業員数・研究開発投資が大きい傾向も示された。また活用の広がり方についても通説と逆の結果が出ており、AI活用は経営層が先行するという調査結果がこれまで多く報告されてきた一方、今回の分析は数百万件の会話ログから、導入から半年後の時点で若手社員が経営層より週あたり13件多くメッセージを送っているという逆の傾向を示した。
Enterprise Signalsは1000万件を超えるメッセージのサンプルをもとに集計されており、OpenAIのエンタープライズ顧客は自社の利用状況をフロンティア企業と比較するベンチマークを個別に依頼できるとしている。単発の数値公開ではなく、企業が自社の立ち位置を継続的に確認できる仕組みとセットで出している点も、今回のレポートの特徴だ。数値を公開して終わりにせず、自社での位置づけを継続的に確認する手段を用意している点は、単なる宣伝目的の統計公開とは一線を画す。企業側が自社の遅れをその場で把握できる仕組みは、導入の背中を押す仕掛けとしても機能するだろう。
3本目のレポートが示す焦点の移り方
OpenAIは6月25日に「How agents are transforming work」、7月27日に「How AI is expanding what people do at work」と同様のテーマのレポートを続けて公開しており、今回で3本目にあたる。回を追うごとに、AI活用そのものの有無から、活用の深さと組織への広がり方へと論点が移ってきている。現場での実践知をどう組織全体に広げるかという論点は、回を追うごとに前面に出てきている。権限設定やレビュー体制の整備を含む社内のAI利用ルールづくりが、活用格差を埋める前提になるとOpenAIは指摘している。




