OpenAIは9月18日、オーストラリア政府に向けた政策提言文書「An Australian Youth Safety Blueprint」を公開した。10代のAI利用をめぐって規制当局が定めるべき原則を6つの柱に整理したもので、同国で意見募集中のオンライン安全法改正案に対する業界側からの提案という位置づけになっている。
6つの柱は、教育現場でのAI活用を前提に据えること、プライバシーを保護する形での年齢推定、18歳未満向けの安全ポリシーの策定と運用、操作的・欺瞞的な出力からの保護、危機対応プロトコルの整備、保護者向けコントロールの提供、という構成になっている。抽象的な原則の列挙にとどめず、各項目でOpenAI自身が現時点で何を実装しているかを併記する形を取っている。
実装側の現状として挙げられているのが、8月からオーストラリアで展開を始めた「ChatGPT for Teens」だ。13〜17歳と判定されたユーザーの既定の体験として提供され、成人向けとは別のガードレールがかかる。文書はChatGPTを使う10代の9割近くが、学習・情報収集・スキル習得・作業効率化のいずれかの用途で週に一度は使っていると述べ、AIから遠ざける方向ではなく安全に使わせる方向で規制を設計すべきだと主張している。
年齢を誤判定されたときの戻し方まで書いている
年齢推定について、OpenAIはオーストラリアでも全世界と同じリスクベースの予測手法を使うとしている。特徴的なのは、確信を持って年齢を判定できない場合は安全側の体験を既定にすると明記した点だ。その代わり、成人が誤って18歳未満の体験に入れられた場合は、第三者の本人確認サービスPersonaにセルフィーを送ることで通常の利用に戻せる。OpenAIはセルフィーや提出された身分証を見ず、Personaは確認用データを7日以内に削除するとしている。豪州のプライバシー法(Privacy Act 1988)に沿って収集する個人情報を最小化する、という説明もここに置かれている。
年齢確認は本人確認書類の提出を求めるほど強度は上がるがプライバシーは損なわれる、という構造を持つ。安全側にフォールバックしたうえで解除手段を用意する設計は、全ユーザーに身分証を求めずに10代を切り分けるための落としどころにあたる。
自傷の兆候は既定で保護者に通知する
危機対応の柱では、保護者アカウントと連携している10代が自殺の意図を示した場合、既定で保護者に通知することを挙げている。誘導先として示されているのは、緊急時のTriple Zero(000)のほか、Lifeline(13 11 14)、Kids Helpline(1800 55 1800)、先住民向けの13YARNといった豪州の窓口だ。長時間の利用中に休憩を促す表示や、メンタルヘルス・児童保護団体との連携、外部の専門家で構成する諮問委員会の設置も盛り込まれている。
保護者コントロールとして求めているのは、13歳以上の子のアカウントとメール招待で連携できること、メモリ・チャット履歴・位置情報といったプライバシー設定を親が管理できること、自傷の兆候が見られたときに自動で通知が届くこと、学習時間や利用を止める時間帯を設定できること、そして親が有効にした設定を子どもが変更・解除したときに親へ通知が届くことだ。最後の項目は、保護者機能が子どもの側から静かに無効化される問題に触れている。
操作的な出力からの保護の柱では、感情的な過度の依存や強迫的な利用、親や信頼できる大人に対する秘匿を促す応答を防ぐよう求めている。AIが自らを意識を持つ存在や恋愛対象、信頼できる人間の権威として振る舞うこと、つまり擬人化の強化を避けるべきだという指摘も含まれる。
9月8日に出た法案草案への意見として出された
この文書が今の時点で出たのは、オーストラリア政府が進めるDigital Duty of Care(デジタル・デューティ・オブ・ケア)の法案草案が9月8日に公開され、意見募集にかかっているためだ。成立すればeSafety長官が所管する現行のコード・標準を置き換える枠組みで、SNSだけでなくAIチャットボットやゲームも対象に入る。OpenAIは草案の目的に賛成する立場を示しつつ、固定的な技術要件を定めるのではなく、リスクに応じた成果ベースの義務にすべきだと求めている。加えて、安全対策の実装状況を独立した第三者が評価し、その平易な要約を各社が自社サイトで公開することも提案している。
OpenAIはこの数週間、青少年関連で製品・立法・研究の3方向に同時に動いている。8月18日にChatGPT for Teensを発表し、8月31日にはカリフォルニア州の青少年AI安全法案への支持を表明、9月8日には10代の発達とAIに関する研究への助成を公表した。今回の提言は、その立法側の動きを豪州の法改正の議論に接続したものにあたる。
日本の読者にとって直接関係するのは、年齢推定とChatGPT for Teensの扱いが「全世界で同じ手法」とされている部分だ。18歳未満と判定されれば日本のユーザーにも同じ既定体験が適用される。一方で、危機時の誘導先として挙がっている窓口は豪州のものであり、6つの柱が前提にしている法的枠組み(eSafetyのコードとDigital Duty of Care)も豪州固有の制度である。



