Google DeepMindは8月21日、EVE Universeを開発するFenris CreationsとのAIエージェント研究の提携を明らかにした。狙いは、一度きりのゲームプレイでは測れない能力——忘却を伴わない継続学習、長期にわたる記憶の蓄積、数週間から数年単位の計画——をエージェントに獲得させることにある。
中心に置かれるのは、DeepMindが2025年11月に公開した汎用エージェント「SIMA 2」だ。Geminiを基盤とし、リアルタイムに推論しながら会話もできる相手として、『No Man’s Sky』『Valheim』『Hydroneer』といった3Dゲームを進行させる。使うのは画面に映る映像と自然言語の指示、そして標準的なキーボードとマウス操作だけで、ゲーム側のAPIやソースコードには一切アクセスしない。人間のプレイヤーと同じ入力チャネルしか与えないという制約が、SIMA 2の設計の前提になっている。
提携で扱う環境は3つある。2003年から単一シャード(全プレイヤーが同じ一つの宇宙を共有する構造)で稼働し続けている『EVE Online』、一人称視点の戦術戦闘を扱う『EVE Vanguard』、そしてプログラム可能な「Smart Assemblies」を備え外部から拡張できる『EVE Frontier』である。DeepMindが研究テーマとして挙げているのは、変化し続ける世界で過去の学習を失わずに学び続けること、モデルのコンテキストウィンドウを超える長期記憶を持つこと、年単位に及ぶ計画を立てること、協調・競争・交渉・経済が絡み合う多エージェント環境に対応すること、そして大規模な集団から創発する社会的振る舞いの5点だ。
20年以上続く一つの宇宙を実験場にする
EVE Onlineが選ばれた理由は、プレイヤーの行動の結果が消えずに積み上がり続けることにある。Fenris CreationsのCEOであるHilmar Pétursson氏は、EVE Onlineを「初日から、プレイヤーによって形づくられる、結果が残り続けるサンドボックスとして構想されていた」と述べ、今回の取り組みについて「他のどのゲーム環境も要求しない時間スケールで、AIが学び、適応し、記憶しなければならない未踏の領域に踏み込む」としている。
DeepMindはゲーム研究で複数のスタジオと組んでおり、Coffee Stain、Hello Games、Foulball Hangover、Keen Software House、RubberbandGames、Strange Loop Games、Thunderful Games、Digixart、Tuxedo Labs、Saber Interactiveが名を連ねる。今回の提携は、この輪に「終わらない一つの世界」を持つスタジオが加わった形になる。
いきなり稼働中のサーバーには出さない
研究の進め方は段階的だ。まずオフラインに切り出したEVE Onlineのインスタンスで始め、次にEVE Frontierへ移り、能力が十分に成熟した段階で初めて稼働中のゲームとの統合を検討する。実際に何千人ものプレイヤーが経済と戦争を回している世界にエージェントを放つ前に、閉じた環境で挙動を確かめる順序を明示している。
一方で、Geminiを使った機能はすでにEVE Online内で動いている。「Aura Guidance」は、コミュニティに寄せられてきた質問をもとに、プレイヤーが蓄積してきた知識を新規プレイヤーへ届ける仕組みだ。エージェント研究の成果を待たずに、生成AIをプレイヤー支援に使う部分は先行して実装されている。
アタリ49本からノーベル賞まで、15年の延長線上にある
DeepMindにとってゲームは一貫して研究の足場だった。2015年のDeep Q-Network(DQN)は生のピクセルだけから49本のアタリのゲームを習得し、2016年にはAlphaGoが囲碁の世界チャンピオンを破った。その後、人間の棋譜を使わず自己対戦だけで学習するAlphaGo Zero、単一のアルゴリズムでチェス・将棋・囲碁を扱うAlphaZero、ルールを知らないまま学習するMuZeroと続き、2019年にはAlphaStarが『StarCraft II』でグランドマスター級に到達した。ここで培われた手法は、50年来の課題だったタンパク質の立体構造予測を解いたAlphaFoldにつながり、2024年のノーベル化学賞につながっている。
ただし、これまでの成果とEVEでは扱う問題の形が違う。囲碁もStarCraft IIも勝敗が明確に定義された閉じた勝負で、一局あるいは一試合の中で意思決定が完結する。長くても数十分で終わる時間軸だ。それに対してEVE Onlineには終わりがなく、勝利条件も定義されていない。同じ世界の中で数年かけて領土や経済圏が動く。時間軸を年単位に引き伸ばし、報酬が明示されない環境に持ち込むという点で、今回は過去のゲーム研究の単なる続きではなく、対象そのものの切り替えにあたる。
なお、SIMA 2のようなエージェントが何をどう自律的に実行するのかという仕組み自体は、別記事「AIエージェントとは?仕組みと主要サービスを解説」で整理している。コンテキストウィンドウや継続学習といった、本記事に出てくる用語の定義は別記事「AI用語総覧」にまとめてある。





