Cloudflareは「CDN・セキュリティの会社」という印象が強いが、いまやAIアプリケーションを丸ごと構築できる開発プラットフォームへと広がっている。世界中のエッジで動くサーバーレス基盤の上に、モデル推論・ベクトル検索・RAG・エージェントといった生成AI開発に必要な部品が一通りそろった。本記事では、Cloudflareが提供する主要なAI開発機能を、それぞれの役割と使い分けの観点から整理する(各機能の一次情報はCloudflare公式ドキュメント)。
なぜCloudflareでAIを作るのか
Cloudflareの強みは、AI機能がすべて同じサーバーレス基盤(Workers)の上に載っていることだ。GPUやサーバーの管理は不要で、使った分だけ課金される。世界中のエッジで実行されるためレイテンシが低く、モデル推論・データベース・ストレージ・エージェントを1つのプラットフォーム内で完結できる。外部のAI APIと自前のインフラを繋ぎ込む手間が小さいのが、他のクラウドと違う点だ。
以下、生成AI開発で中心になる5つの機能を順に見ていく。
Workers AI|サーバーレスでAIモデルを動かす
Workers AIは、GPUを自前で用意せずにAIモデルの推論を実行できるサービスだ。Meta Llama、NVIDIA Nemotron、Google Gemma、DeepSeek、GLM、Kimiなど、多数のオープンモデルがカタログに用意されており、コード数行で呼び出せる。テキスト生成だけでなく、埋め込み(embeddings)・画像生成・音声認識なども扱える。
課金は「Neuron」という独自単位で、1,000 Neuronあたり$0.011。毎日10,000 Neuronまでは無料で、それを超えて使うにはWorkers Paidプラン(月$5〜)が必要になる。サーバーレスなので時間課金ではなく、実際に処理した分だけの支払いで済む。一部の大型モデルは有料プラン必須になっているため、使いたいモデルの条件は確認しておきたい。
AI Gateway|あらゆるAI APIの「関所」
AI Gatewayは、AIへのリクエストを一箇所に集約して管理・可観測化するプロキシだ。Workers AIだけでなく、OpenAI・Anthropic・DeepSeekなど外部プロバイダーのAPIも同じ入口を経由させられる。既存のAPI呼び出しのURLをAI Gateway経由に差し替えるだけで導入できる。
得られる機能は、AIを運用に乗せるうえで効いてくるものばかりだ。
- 可観測性:リクエスト数・トークン量・レイテンシ・コストをダッシュボードで可視化・ログ化
- キャッシュ/レート制限:同じプロンプトの結果を再利用し、リクエスト量に上限を設定
- フォールバック/リトライ:あるモデルがエラーを返したら自動で別モデルに切り替え
- ガードレール/DLP:不適切な内容や、個人情報・認証情報などの機微データを検知・ブロック
- スペンドリミット:ドル建ての予算上限を設定し、超過したらリクエストを止める(または安いモデルへ切替)
複数のAIプロバイダーを使い分ける構成では、コスト・品質・可用性を一元管理する「関所」として役立つ。
Vectorize|RAGの土台になるベクトルデータベース
Vectorizeは、テキストなどを数値ベクトル化して保存・検索するベクトルデータベースだ。意味の近さで検索するセマンティック検索や、レコメンド、そしてRAG(検索拡張生成)の基盤になる。1つのインデックスに最大2,000万ベクトル(2026年8月に1,000万から倍増)、1ベクトルあたり最大1,536次元まで格納できる。
Vectorizeは、RAGの「検索」パートを担う部品だと理解するとよい。
AI Search(旧AutoRAG)|フルマネージドのRAGパイプライン
Vectorizeが「自分でベクトルを管理する」部品なのに対し、AI Search(旧称AutoRAG)はRAGの一連の流れを丸ごと自動化するマネージドサービスだ。ストレージ(R2)にドキュメントをアップロードすれば、チャンク分割・埋め込み生成・インデックス作成・検索・回答生成までを裏側で処理してくれる。データが更新されると自動で再同期される。
検索はベクトルとキーワードを組み合わせたハイブリッド検索に、リランキングやメタデータフィルタも備える。VectorizeとAI Searchの使い分けは次のとおり。
| 観点 | AI Search(旧AutoRAG) | Vectorize |
|---|---|---|
| 正体 | コンテンツ全体を対象にした管理型の検索/RAG | 自分で作り込むベクトルDB |
| 渡すもの | ファイル、または接続したデータソース | 自分で生成したベクトル |
| チャンク・埋め込み | 自動 | 自分で生成・投入 |
| 回答生成 | 組み込み(任意) | 含まない |
| 向いている場面 | とにかく早くRAG/検索を足したい | 検索パイプラインを細かく制御したい |
「まず動くRAGを最短で作る」ならAI Search、「retrievalを自分で設計する」ならVectorize、という住み分けだ。
Agents SDK|AIエージェントを作るための基盤
Agents SDKは、状態を持つAIエージェントをWorkers上に構築するための開発キットだ。`npm i agents` で導入でき、`Agent`クラスを継承して実装する。裏側はDurable Objectsで、状態・セッションの永続化、WebSocketによるリアルタイム通信、タスクのスケジュール実行、デプロイをまたいでも途切れない実行(durable execution)を提供する。
エージェントに持たせる「道具」も豊富で、ブラウザ操作・サンドボックスでのコード実行・AI Search・MCPツール・決済などをツールとして組み込める。MCPサーバー自体を作るための`MCPAgent`クラスや、チャットUIを作るReactフック(`useAgentChat`)も用意されている。
どう組み合わせるか
これらは単体でも使えるが、真価は組み合わせにある。たとえば社内ドキュメントに答えるRAGチャットボットなら、次のように役割分担する。
- AI Search/Vectorize:社内文書を検索して関連箇所を取り出す
- Workers AI:取り出した内容をもとに回答文を生成する(外部APIを使うなら不要)
- Agents SDK:会話の状態を保ち、検索→生成の流れを制御する
- AI Gateway:全体のリクエストを可観測化し、コストと安全性を管理する
すべて同じプラットフォーム上にあるため、これらを繋ぐのに別々のサービス契約やインフラ構築を必要としないのが利点だ。
料金の考え方
Cloudflareのこれらの機能は、無料枠から始められるものが多い。Workers AIは毎日10,000 Neuron無料、本格利用でもWorkers Paidは月$5〜と入り口が低い。AI Gatewayの管理機能やVectorizeも小規模なら低コストで試せる。まず無料枠で試作し、トラフィックが増えてから従量課金でスケールする、という進め方に向いている。実際の単価は各機能の公式料金ページで最新を確認してほしい。
OpenAI・Anthropic・Googleとの違い
OpenAIやAnthropic、Googleが「賢いモデルそのもの」を提供するのに対し、Cloudflareの立ち位置はそれらのモデルを載せて動かす「土台」に近い。Workers AIでオープンモデルを動かすこともできるし、AI Gateway経由でOpenAIやAnthropicのモデルを使うこともできる。つまりモデルの提供者と競合するというより、それらを組み合わせてアプリを作る場所だと捉えるとわかりやすい。フロンティアモデルの生成品質を求めるなら外部API、コストとレイテンシ・運用の一元化を求めるならCloudflare、という使い分けになる。
よくある質問
Workers AIとAI Gatewayは何が違いますか?
Workers AIは「モデルを動かす」サービス、AI Gatewayは「AIへのリクエストを管理・可観測化する」プロキシです。Workers AI単体でも使えますが、AI Gateway経由にするとログ・キャッシュ・コスト管理などが加わります。外部プロバイダー(OpenAI等)を使う場合もAI Gatewayを噛ませられます。
VectorizeとAI Searchはどちらを使えばいいですか?
最短でRAG/検索を実装したいならAI Search(旧AutoRAG)、検索パイプラインを自分で細かく制御したいならVectorizeです。AI SearchはVectorizeの上に構築されており、チャンク分割や埋め込みを自動でやってくれます。
無料で試せますか?
はい。Workers AIは毎日10,000 Neuronまで無料、Agents SDKのスターターはWorkers AIを既定で使うためAPIキーなしで動かせます。本格利用ではWorkers Paid(月$5〜)と従量課金になります。
外部のAIモデル(GPTやClaude)も使えますか?
使えます。AI Gateway経由でOpenAI・Anthropic・DeepSeekなどのAPIを呼び出せ、その場合もログやキャッシュ、スペンドリミットなどの管理機能が効きます。
役割で整理すると迷わない
Cloudflareの生成AI機能は、Workers AI(推論)・AI Gateway(管理)・Vectorize(ベクトル検索)・AI Search(マネージドRAG)・Agents SDK(エージェント基盤)という役割分担で整理できる。いずれも同じサーバーレス基盤に載っており、無料枠から始めて必要に応じてスケールできる。モデルそのものの賢さでは大手AI企業に譲る場面もあるが、それらを組み合わせてAIアプリを「作って・動かして・運用する」場所としては、参入障壁の低さと一体感で際立っている。まず小さなツールを1つ作ってみるところから始めるのがよいだろう。




