Googleは9月2日、Gemini 3.8 Flashとサイバーセキュリティ特化版の3.8 Flash Cyberを公開した。3.8 Flashは汎用モデルとして誰でも使えるが、Cyber版は政府機関と重要インフラ事業者に対象を絞った限定提供になる。
3.8 Flashが強化されたのは、ソフトウェアエンジニアリング、自律的な問題解決、長時間にわたるエージェント動作、そして金融や法務といった専門領域の多段推論である。Googleは、複雑なエンジニアリング課題を扱うDeepSWE v1.1で、自社より規模の大きいフロンティアモデルの多くを上回ったとしている。数値として明示されたのは、STEMや専門職領域の多段推論を測るHLE-Verifiedの54.9%で、そのほかVals Finance Agent V2とHarveyの法務エージェント向けベンチマークの結果がグラフで示された。
提供先は広い。開発者向けにはGoogle Antigravity、Google AI Studio、Android Studio、Stitchで利用でき、法人向けはGemini Enterprise。一般利用者向けにはGeminiアプリ(ProおよびUltraプラン)、Google検索のAIモード、Googleスプレッドシートに入る。
なお、Geminiアプリ側のProとUltraが具体的に何を含むプランなのかは、別記事「Geminiの料金プランを徹底比較」で整理している。
6週間で3世代、API価格は3.7 Flashと同額
APIの導入価格は、100万トークンあたり入力0.75ドル・出力3.75ドル。この価格が2026年12月31日まで適用され、2027年1月1日から標準価格の入力1.50ドル・出力7.50ドルに切り替わる。1ドル150円で換算すると、導入価格は入力約113円・出力約563円、標準価格は入力約225円・出力約1,125円になる。
この価格表は、8月13日に発表された3.7 Flashのものと1セントも変わっていない。導入価格の金額も、標準価格に切り替わる2027年1月1日という日付も同一で、性能だけが更新された形だ。
リリースの間隔も詰まっている。3.6 Flashが7月21日、3.7 Flashが8月13日、そして今回の3.8 Flashが9月2日。6週間で3世代が並んだ計算になる。
ただし、世代間の差分の示し方は前回と変わった。3.7 Flashの発表では、3.6 Flashとの比較がスコアで並べられていた。DeepSWE v1.1が49.0%から65.3%、FrontierCode 1.1が34.4%から43.6%、WebDev ArenaのEloが1538から1588といった具合である。今回の3.8 Flashの発表本文では、3.7 Flashからの改善は「ソフトウェアエンジニアリング、エージェント動作、重要な多段推論にわたる大幅な向上」という記述にとどまり、対比スコアはグラフ側に置かれた。世代あたりの伸びを数字で追いたい場合、テキストだけでは足りない。
コーディング用途でどのモデルを選ぶかという観点は、別記事「コーディングAI比較」で扱っている。
Cyber版が測られているのは「脆弱性を直せるか」
3.8 Flash Cyberは、脆弱性の発見と修正パッチの生成に用途を絞ったモデルである。20以上のプログラミング言語を対象に、実在するコードベースでの脆弱性発見の成功率が70%を超えたとされる。修正側では、CWE-Benchのパッチ生成でpass@1が47.2%。Googleはこれを、先行するフロンティアモデルの47.8%と並ぶ水準だと位置づけている。脆弱性発見のCyberGymでもフロンティア級としており、プロンプトインジェクションへの耐性も強化項目に挙がっている。
実運用での検証結果も出ている。Chrome Securityでの評価では、規模の大きい商用モデルと比べて正しいパッチの数が2.6倍。クラウドセキュリティのWizによる評価では、検出の再現率が7.5〜9.7ポイント高く、コストは2.3〜5.2分の1だったという。パッチ生成の精度そのものより、同等の精度をどれだけ安く回せるかを見ている数字だ。
このCyber版は、APIで誰でも呼べるモデルではない。同日発表された「Fairwind」プログラムを通じて、信頼できる政府当局や重要インフラ事業者に配布される。サイバー特化版という枠自体は新しくなく、7月21日の3.6 Flash発表時にも「3.5 Flash Cyber」が同時に公開されている。汎用のFlash系を短い間隔で更新しつつ、攻撃にも転用できる能力を持つ派生版は配布先を絞る、という運用が続いていることになる。
結果として、一般の開発者がAPIで扱えるのは3.8 Flashのみで、Cyber版の実力はFairwindに参加した組織からの報告を待つことになる。




